重度の変形性膝関節症の手術
(DLO:Double Level Osteotmy)について
川田整形外科では変形性膝関節症に対して積極的保存療法の一つである再生医療(PRP療法)を始めました.
HTO(High Tibial Osteotomy)からDLO(Double Level Osteotomy)へ
川田整形外科ではこれまで変形膝関節症に対してO脚(内反膝)に対する高位脛骨骨切り術(HTO;DTO),X脚に対する遠位大腿骨骨切り術(DFO)を実施してきました.特にO脚は軽度の変形から重度の変形まで存在し,それに対してHTOのみで対応してきました.
近年,重度の変形性膝関節症に対してHTOのみでのアライメント強制では脛骨関節面の側方傾斜が増大し,非生理学的な関節面になることが指摘されています.これらの問題としては,関節面での剪断力の増加による荷重時の大腿骨の亜脱臼,関節包靭帯組織への過負荷などにより新たな骨棘の発生などが挙げられます.
そこで近年ではこれらの問題を解消するために,脛骨のみの骨切りだけではなく,X脚に行われていたDFOを組み合わせることにより,大腿骨と脛骨での両側の骨切りを行うことでこれらの問題が解決できるようになりました.O脚に対するDFOはX脚に行われている内側アプローチではなく外側からアプローチを行います.川田整形外科ではよりよい治療を行うために2020年より積極的にDLOを手術を実施しています.
DLO(Double Level Osteotomy)とは?
DLO(Double Level Osteotomy)とは大腿骨と脛骨の2か所で骨切り術を行う手術です.O脚の場合は大腿骨では外側から骨切りを行い骨片を取り,骨切り部を閉じる閉鎖式を採用し,脛骨側では内側から骨切りを行い,人工骨や自家骨を骨切り部に挿入し,骨切り部を開く開大式を採用します.脛骨側は当院で従来行っている高位脛骨骨切り術(HTO)と同じになります.2か所の骨切りを行うことで膝関節のパラメータ(下図)を正常範囲内に収めることができるようになり,理想の膝関節アライメントを獲得することができます.
DLOの適応
DLOの適応は高度変形性膝関節症を伴っており,強制角度が過多の場合に適応されます.またDFOを行うため骨癒合の関係から適応年齢は65~70歳までが対象となります.それ以上の年齢の方は診察時にご相談ください.基本的には通常膝関節面に荷重線が通るのですが重度の変形ではこの荷重線が関節面から外れています.外れている場合は基本的にDLOの対象となります.また脛骨側の強制角度は10°,10mmを超えると膝蓋大腿関節に問題が生じる可能性が指摘されています.そのため15㎜以上の矯正はDLOの適応としています.しかし,関節の変形はとても複雑で様々な箇所で変形が起こっているため,最終的な判断はMediCADを使って理想の関節面を計算し,精度の高い矯正角度を算出します.
DLOが行えるのもこのMediCADが導入されたことによる恩恵が高いです.複雑な計算を迅速にそして正確に行えることができます.これらは理想の骨切り術を行うために必要不可欠になります.
膝パラメータの基準値
DLO適応例
荷重線が膝関節中に入っていない.(オレンジ線)
HTOのみの矯正では20mm以上骨を開く必要がある.
膝関節面角度を正常範囲内に収めるように計算した結果,大腿骨,脛骨ともに矯正角度は許容範囲内に収まりました.
DLOのメリットとデメリット
DLOのメリットについて
①理想的な関節面作れ,よりよい膝関節アライメントに修正できます.
②従来,重度の変形性膝関節症に対しては人工関節が適応されていたがDLOを用いることで関節を温存したまま治療が可能になります.
③活動性が高い方などは関節が温存されるためスポーツ活動なども可能になります.
④骨癒合が得られた後は,活動に制限がなくなります.
DLOのデメリットについて
①骨癒合の関係から荷重時期を慎重に行うため入院期間が長くなる.(6~7週間)
②1年後に抜釘手術を行うため,2回の手術を行うことになり,抜釘時には筋力低下や可動域制限を生じる可能性があります.
③HTOと比べると大腿骨での骨切りがあるため膝関節の可動域獲得に時間がかかります.
④DFOの場合大腿骨後面に膝窩動脈があるため極まれではあるが血管損傷のリスクがあります.また大腿骨骨切り後の固定性は,ロッキングプレートを用いても回旋に対しては弱いため,ヒンジ骨折を生じた場合は荷重制限が行われます.
DLOの手術について
手術の前に主治医がMediCADを用いて術後の膝関節パラメータを正常範囲内に収めるように計算し理想の膝アライメントを計画します.これを用いて骨切りの幅,角度を決定します.これらの計画に従って手術が行われます.
まずは関節鏡を用いて関節内の軟骨や半月板,軟部組織の状態を確認します.必要に応じて半月板の処置やマイクロフラクチャー(骨に穴をあけて関節軟骨を再生する方法)など行います.
次に大腿骨の骨切りを行います.切開を行い腸脛靭帯や外側広筋などを持ちあげて大腿骨を露出させます.2面骨切りを行い骨片を取り除きます.骨片を取り除き骨端同士を閉じるように密着させます.密着させた状態で金属プレートを設置し,スクリューで固定します.必要に応じてスクリューなどを追加することもあります.大腿骨を先に行うことで脛骨側での骨切り時にアライメントの微調整が可能になります.
最後に脛骨の骨切りを行います.切開を行い内側側副靭帯や鵞足を必要に応じて剥離,切断します.骨切りする脛骨部分を露出させて,骨切りを行います.骨切り部を広げ人工骨及び関節鏡時に削った骨棘などを自家骨として挿入します.金属プレートを設置し,スクリューで固定します.脛骨粗面にも固定用にスクリューを挿入します.
DLOの術後リハビリテーション
①DLOリハビリテーションの特徴
DLOのリハビリテーションは基本的にDFOのリハビリテーションに準じます.
DLOのリハビリテーションには以下のような特徴があります.
1.骨癒合を最優先するために,荷重時期が遅くなります
2.術後初期は骨切り部への負担を最小限に行います
3.患部を主とした筋力トレーニングがHTOよりも遅くなります
4.膝ROM(可動域)獲得がHTOに比べ遅くなりますが,DFO(X脚)よりは早くなります.
②DLOリハビリテーションの経過
1)入院リハビリテーション
術後翌日より歩行訓練(免荷:体重をかけない)を行います.術後1週間は組織修復の保護や疼痛や浮腫のコントロールを目的にアイシングや超音波,低周波,リンパドレナージなどを中心に行います.膝の屈曲可動域の改善はCPMという機器を用いて行い,軟骨修復の改善を促します.
荷重時期はHTOでは術後1週目から行いますが,DLOの場合術後2週間で体重の1/3部分荷重を行います.3週目より1/2,4週目より2/3,5週目より全荷重になります.全荷重までに患部に負担のかからない筋力トレーニングや筋再教育トレーニングを行います.膝屈曲の可動域は退院までに120°以上の獲得を目指します.HTOと比べやや膝角度の回復は遅いですが退院までにはほとんどの方が120°以上まで回復します.全荷重が安定したころに退院となるため,その時点でのゴールは正しい歩行が可能になることとなります.
2)外来リハビリテーション
その後外来リハビリテーションが開始となり,膝屈曲可動域の改善と大腿四頭筋の筋力を改善させます.手術時に外側広筋をめくり,その直下にプレートを埋め込んでいるため術後侵襲により術後初期は著明な機能不全を生じます.そのため浮腫や痛みが改善した後,積極的に機能を改善していく必要があります.外来リハビリテーションの目安は週1~2回ですが,リハビリテーション開始時は膝の屈曲可動域制限と大腿四頭筋全体の筋力低下が依然あるため週2回以上のリハビリテーションをおすすめします.
体重負荷を利用した筋力トレーニング(CKCex)は6~8週から開始となります.それ以前に積極的に筋力トレーニングを行いたくなりますが患部の安全性を考慮して骨癒合が安定するまでは控えることが推奨されています.
3ヵ月目からランニングやスイミングなど Low Impact weight ex(低負荷の衝撃トレーニング)が開始可能となります.時期に達したからすべて可能になるわけではありません.その時点の膝の状態や疼痛,筋力回復状況により調整を行いますので,主治医と担当理学療法士に相談をしてください.3ヶ月目より膝の筋力測定を行います.
6ヵ月からはほぼ制限がなくなります.活動的なトレーニングが可能になる時期です.ただし負荷量が急激に上がると疼痛や関節水腫(水がたまること)が生じることがあるので負荷量は徐々に上げていくことが重要です.膝伸展の筋力測定では患健比80%以上(手術した筋力が良い方の筋力の80%以上)を目指しましょう.筋力に応じてスポーツ復帰を目指します.
3)1年後の抜釘手術について
12ヵ月を目安に抜釘術と再鏡視を行います.再度内視鏡で関節の中の状態をチェックし,関節軟骨や半月板の状態を確認します.処置が必要な場合は適宜処置を行います.DLOの場合,大腿骨と脛骨の2カ所からプレートを除去するため,膝の可動域制限と大腿四頭筋の筋力低下を生じる可能性があります.
4)抜釘手術後のリハビリテーションについて
退院された後も術前(抜釘時)の膝機能の状態に戻るまでリハビリテーションを継続します.この場合は週1回程度を予定しています.膝が術前(抜釘時)の状態まで回復し問題なければリハビリテーションは終了となります.診察は抜釘後1年間継続しフォローを行います