足関節捻挫の治療と手術方法
(外側足関節靭帯再建術)について
1.足関節の靭帯について
足首の捻挫で損傷する靭帯は足首の外側にある靭帯で外側靭帯と呼ばれ,①前距腓靭帯,②踵腓靭帯,③後距腓靭帯で構成されています.これらは腓骨の外果下端前方部に集中して付着しており,それぞれがつながっているため外側靭帯複合体(lateral ligaments complex)とも呼ばれます.それぞれが独立しているように見えるが一部つながっているため複合的に靭帯を損傷する可能性があります.
①前距腓靭(赤色)
②踵腓靭帯(青色)
③後距腓靭帯(黄色)
前距腓靭帯は長さ約20mm,幅約5mm程度で四辺形をしています.2つまたは3つに分かれて走行していることが多く,上部線維と下部線維に分けられ,上部線維が大きいとされています.下部線維は踵腓靭帯との下方線維とつながっています.足関節中間位では前距腓靭帯の緊張は程度であるのに対して,底屈時には緊張します.これは足関節が底屈位で骨製の安定性がなくなるために靭帯で安定性を補強するためだと言われています.
踵腓靭帯は長さ約30mm,幅約5mmの索上の靭帯であり,腓骨筋腱溝の一部を構成しており腓骨筋腱の脱臼に関与すると言われています.前述したように踵腓靭帯の下部線維は前距腓靭帯とつながっているため前距腓靭帯損傷に伴い合併損傷をきたすことがあります.踵腓靭帯は足関節背屈位で緊張し,背屈時の足関節及び距骨下関節の安定に関与しています.
後距腓靭帯は長さ約30mm,幅約5mmの台形の形をした非常に強力な靭帯とされています.足関節背屈で緊張するとされ,この靭帯が損傷することは稀とされています.
このように足関節外側靭帯は足関節及び距骨下関節の安定させる役割があり,これらの靭帯は足関節底屈,背屈時にその役割の変化を生じます.底屈では主に前距腓靭帯が機能し,背屈では踵腓靭帯と後距腓靭帯が機能しています.
2.足関節靭帯損傷とは?
足関節の靭帯損傷は主に上記で述べた外側靭帯が断裂したことをさします.その中でも圧倒的に多いのは前距腓靭帯であると言われています.足関節内側靭帯損傷と比較して,足関節外側靭帯損傷が多い理由には,以下の4点があります.
①内側の三角靭帯が強靭であり,特に前距腓靭帯は他の足関節外側靭帯(踵腓靭帯345N)と比べると強度が低い(138N)と言われています.
②外果よりも内果が短いため,内反方向で骨性の制限が少ないため過可動性となり靭帯が損傷しやすくなります.
③足関節底屈位では関節のあそびが大きいため,特に前距腓靭帯は底屈・内反位で緊張し,損傷しやすくなります.
④外反作用のある腓骨筋が底屈位で作用しにくい特徴があります.
足関節外側靭帯損傷の中でも,前距腓靭帯の損傷頻度は65~73%であり,前距腓靭帯損傷に踵腓靭帯損傷を合併する頻度は約20%である.後距腓靭帯と踵腓靭帯の合併損傷は2%しかありません.
また足関節外側靭帯損傷に伴う,周囲の軟部組織損傷を調査した研究によると,後脛骨筋腱(53%),短腓骨筋(27%),長腓骨筋(13%),長母趾屈筋(13%),長趾屈筋(13%)にも損傷がみられたと報告されています.
3.足関節靭帯損傷の原因について
急性足関節捻挫はスポーツにもよりますが女性での発生頻度(10万人当たりの件数)が多い傾向があり,スポーツにおける足関節捻挫の発生頻度は非常に多いとされています.足関節捻挫の50%はスポーツ関連の怪我とされ,ランニングやジャンプをするスポーツ中に発生する全外傷の25%を占めると言われています.その中でも足関節外側靭帯損傷は,バスケットボールにおける全外傷の45%,バレーボールの25%,サッカーの31%を占め,発生頻度が非常に多いことが特徴です.
足関節捻挫の危険因子として足関節背屈制限やバランス能力の欠如,関節運動感覚,神経金機能の不足を上げています.
足関節捻挫の最も多い受傷機転は足関節底屈,内反が強制的に行われることで生じるとされます.動作としては着地動作や方向転換動作における内反強制が多くみられます.具体的には『ジャンプ着地時に他人の足を踏んだ』『ターン動作時に踏ん張り切れなかった』『段差を踏み外した』などがあります.足関節外側靭帯損傷の再受傷率は9~80%と報告ごとのばらつきが大きいが,不安定性により再受傷の危険性が高まり,骨・軟骨,軟部組織の二次的な損傷につながる恐れがあります.前距腓靭帯損傷後の足関節不安定性は前方や内反方向に生じやすいとされています.
4.足関節靭帯損傷の症状
足関節捻挫受傷後には,様々な組織の損傷によって腫脹(腫れ)や熱感,疼痛などの炎症症状ほか,足関節の可動域制限や筋力低下,バランス機能・関節位置角の低下などが見られます.
・疼痛:足関節外側や前部の痛みを訴えることが多く,内側や後方部に痛みを感じるケースもあります.
・腫脹:足関節外側に腫れを認めることが多く,足関節全体が腫れることがあります.
・可動域制限:足関節背屈・底屈・内反・外反の可動域制限を生じます.
・筋力低下:腓骨筋の筋力低下が生じやすく,足趾伸筋・屈筋,後脛骨筋・下腿三頭筋などにも筋力低下が生じます.
腫脹は受傷後10日移行から徐々に軽減し,疼痛は2週間までに急速に軽減すると言われています.しかし,その一方で1年後に疼痛が残存している患者が5-33%存在するとも言われています.
足関節捻挫は何もしなくても歩けるようになるため経過が良いというのが一般的な常識になっているため『たかが捻挫』と軽視されることが多くみられます.しかし先ほども述べたように実際には1年後にも疼痛や関節の不安定感が残存している症例がみられ,これらは同様の捻挫を繰り返すいわゆる『捻挫ぐせ』に移行する可能性があります.(初回捻挫の20~40%の割合)捻挫の程度が軽いほど反復損傷を生じるリスクは高いとの報告もあるため,決して軽視すべきものではありません.
このような慢性的な機能不全があることにより,足関節の支持機能は低下し,スポーツ復帰への妨げやパフォーマンス低下を引き起こす可能性もあります.足関節靭帯の機能不全は長期的に見ると関節面への繰り返しの負荷がかかることにより関節軟骨の変性を生じ変形性足関節症へ進行することが危惧されています.
足関節靭帯の機能不全は日常生活へ支障をきたすことがあまりないため完治したと思われがちですが靭帯の緩みは関節の緩みを招きこれらは関節軟骨へのダメージを与えるため,初期に適切な治療を受けることが重要になると当院では考えています.
その他の合併症としては骨軟骨損傷(OCD)や腓骨筋腱損傷や脱臼がみられる場合があります.外果後方の痛みや脱臼感,腫脹を併発している場合は注意が必要です.当院では腓骨筋腱脱臼の修復術も行っていますので何かあればお気軽にご相談ください.
5.足関節靭帯損傷の診断について
足関節捻挫における診断方法は主に視診,触診,単純X線及びMRIを用います.X線では関節アライメントや骨折の有無,ストレスを加えた時に関節の不安定性の確認などを判断します.X線では骨軟骨や軟部組織の損傷は分からないためMRIが用いられます.
MRIの利点は軟部組織の損傷が分かることです.もちろん足関節の靭帯断裂の有無も分かります.これらの画像診断と臨床所見を踏まえながら診断を行っていきます.
足関節靭帯損傷の重症度分類
Ⅰ度:ATFLの部分断裂
Ⅱ度:ATFLの単独損傷
Ⅲ度:ATFL+CFL損傷
X:前方引き出しテスト y:距骨傾斜角(talar tilt angle)
(Anterior drawer displacement) (正常5°以下)
(正常4mm以下)
Sy, Joshua W et al. “Correlation of stress radiographs to injuries associated with lateral ankle instability.” World journal of orthopedics vol. 12,9 710-719. 18 Sep. 2021, doi:10.5312/wjo.v12.i9.710 より引用
ADDは10mmで重度損傷,TTAは10°以上で重度もしくは重複靭帯損傷の指標とされています.ATFLが損傷した場合は主にADDが増加しTTAは影響が少なく,CFLが損傷するとTTAが増加すると言われています.
6.足関節靭帯損傷の治療について
足関節捻挫は多く見れる外傷であり,受傷後比較的動けることが多いため治療に対して軽視されることが多くあります.しかし,治療を怠った場合,長期的に慢性的な症状を示すとともに機能障害を生じ,将来的には変形性足関節症などへ進行する可能性が報告されています.(Gribble PA, Bleakley CM, Caulfield BM, et al. Evidence review for the 2016 International Ankle Consortium consensus statement on the prevalence, impact and long-term consequences of lateral ankle sprains. Br J Sports Med. 2016;50(24):1496-1505.)
足関節捻挫は保存療法で対応することが多いですが,靭帯損傷の程度が大きく,早期の復帰を望む患者さんに対しては手術療法が選択されます.
1)保存療法
保存療法で重要なことは靭帯を保護し靭帯の緩みを最小限に抑え,疼痛を残さず足関節機能を回復させることが重要です.
①靭帯の保護
損傷した靭帯へ過度なストレスが加わることで炎症反応が助長され,靭帯の治癒が阻害される可能性があるため装具を装着し内外反の運動を制限し関節を保護します.以前まではギプス固定での安静で靭帯を保護していましたが関節拘縮や腫脹の管理が困難などの問題があり現在ではギプス固定は行いません.靭帯や腱などの修復過程では生理的な関節な動きは,靭帯治癒を促進させる効果があることがわかっており現在では機能的装具を用いています.
リハビリテーションでも物理療法や関節拘縮に対する運動療法が可能になるため早期に足関節機能を改善させることが可能になります.
装具により内反動作は制限されていますが過度の底屈はATFLを伸張させるリスクがあるため注意が必要です.ATFLは底屈17°で緊張状態に移行すると言われているため就寝時などには布団を足首にかけると過度な底屈を生じる可能性があるため注意が必要です.
疼痛が軽減して断裂した靭帯が十分癒合していない時期に運動を繰り返すことで滑膜炎や瘢痕組織を生じインピンジメントによる疼痛を生じたり,靭帯が緩んだままになるリスクがあるため慎重に運動を開始する必要があります.
②炎症反応を抑える
急性期の炎症反応を抑えることで2次的な組織の損傷を防止することが可能になります.またそれにより靭帯の修復を抑制させ,疼痛も軽減すること可能です.炎症が長引くということは関節の腫脹が長引くことになるので関節拘縮のリスクが高くなります.そのため早期からの炎症を抑制させることは重要になります.
そのためにRICE処置によるアイシングや圧迫などを行い,消炎鎮痛薬などの内服治療,リハビリテーション(物理療法)なども併用していきます.
中等度以上の靭帯損傷の場合は歩行が困難になることが多く荷重による疼痛が出現します.これらには松葉杖を処方し痛みの範囲内での歩行を行います.徐々に荷重をかけれるようになるので痛みがなくなれば可及的に松葉杖を外していきます.
③足関節機能の回復
足関節機能の低下を最小限にするために炎症軽減をするための物理療法や炎症反応を助長させない範囲で運動療法(可動域訓練や筋力訓練,筋緊張の緩和など)を行っていきます.
足関節の炎症に伴う筋力低下や可動域制限は歩行を著しく悪化させる(跛行:はこう)ためこれらを改善させ正常歩行を早期に改善させていきます.
2)手術療法
手術療法を選択する場合は足関節靭帯損傷の程度やストレスX線撮影での結果,スポーツ復帰など様々な内容を考慮していきます.基本的には保存療法で足関節の不安定性が改善されない場合に選択します.
当院では以前まで骨孔を開けて人工靭帯を使用した再建方法を採用していました.この術式でもスポーツ復帰は問題なく行えていましたが近年になってInternal Braceを採用した手術方法が確立されてきました.以前の方法と比べると骨孔は開けるのですが貫通させず開けた部分に骨吸収スクリューを埋め込み人工靭帯を固定します.この方法により出血量が少なくなり,術後の腫脹が軽減し足関節機能の回復が早くなりました.最近では2023年に大谷翔平が肘の手術で採用されたのがこのInternal Braceを用いた手術方法と言われています.
7.足関節靭帯損傷のリハビリテーション
ここでは主に靭帯再建術後のリハビリテーションについて説明します.
手術時に侵襲した組織の治癒過程を考慮し,炎症症状の強い術後2~3日は炎症改善や患部外トレーニングを主としてリハビリテーションを進めていきます.主には物理療法などを用い消炎鎮痛や筋肉の再教育を行っていきます.その後,患部の状態に応じ,可動域訓練や筋力訓練,バランス訓練などの足関節機能の改善を行っていきます.
筋力と関節可動域については,受傷時に過度の伸張を受ける腓骨筋や,前脛骨筋それらに付随して下腿三頭筋の筋力低下が生じやすいとされており,特に下腿三頭筋の筋力低下は歩行時の推進力の低下を招きます.
足関節の可動域制限も歩行の支障をきたし正常歩行が困難になる原因の1つです.足関節背屈角度が5~10°程度獲得できれば,歩行における歩幅や片脚支持時間に左右差が見られなくなる可能性があるため入院中にこれらの機能を正常に回復させていきます.
荷重訓練は術後の疼痛に応じて可能であり,痛みがなければ全荷重歩行に速やかに移行していきます.足関節底背屈運動は制限はありませんが足関節内外反運動は術後6週間禁止となります.また過度な底屈運動(足首を伸ばすこと)もATFLの伸張を招くため注意が必要です.
スポーツ復帰については3~4か月をめどに復帰をしてきます.断裂した靭帯を縫合しておりその靭帯を人工靭帯で補強しているので縫合部分が安定するまで注意が必要です.
復帰までに要する日数に,機能低下(疼痛,腫脹,足関節可動域・筋力)および能力障害(歩行,走行,ジャンプなど)が影響するため,復帰までにこれらの因子の改善が求められます.1つ1つ動作を確認しながら不安感なく動作が実施可能になるまでリハビリテーションではフォローアップしていきます.
(リハビリの流れ)
手術翌日~2,3日:炎症改善(物理療法など)・足趾運動・患部外運動・疼痛に応じて荷重訓練(toe touch~)
4日目~:足関節底背屈ROM(背屈free・底屈30°以内)
2週目~:ヒールレイズ(座位)
3週目~:足関節底屈他動ROM開始(底屈30°以上OK)
・荷重の安定性が得られていればフラット上でのバランス訓練開始
・自転車エルゴメーター
4週目~両脚スクワット,フロントランジ,ヒールレイズ(立位・両脚),階段昇降1足1段
術後3~4週を目安に退院となります.
5週目~ヒールレイズ(立位・片脚)
6週目~足関節内外反ROM・筋力トレーニング,就寝時のみ装具除去
6,7週目~サイドランジ,片脚スクワット
8週目~ランニング,ステップ動作
12週目~スポーツ復帰,装具除去
8.外来リハビリテーションについて
術後3~4週を目安に退院となり外来リハビリテーションに移行します.この時点では主に日常生活ができるレベルでの退院となるためスポーツ復帰に必要な機能回復はまだ不十分な状態です.そのため外来リハビリテーションでは週1回程度を目安に足関節の機能改善を目的に運動を行っていきます.縫合した靭帯の強度が高くなる2か月頃を目安に機能訓練から能力訓練へ移行してランニングやジャンプなどの動作を行い,3~4か月後のスポーツ復帰に向けてリハビリテーションを行っていきます.
退院直後は腫脹や熱感が残存していることも少なくないので,アイシングは引き続き行って下さい.
また,術後6週目までは内側に捻る様な運動は行わないように注意してください.再建した靭帯にストレスがかかり関節に緩みが出ることがあります.
術後6週頃から夜間就寝時の装具は除去し,日常生活時のみ装具着用します.装具は3ヶ月目頃までは着用するように指導していますが,運動レベルによっては継続的に使用することも重要だと思われます.